青山航士さんが振付助手を担当された『ハウ・トゥー・サクシード』、初日の舞台を観劇しました。
ビルの窓拭き清掃員フィンチがある日手にした一冊の本『努力しないで出世する方法』に感化され、大企業の幹部へとトントン拍子に出世していくコメディミュージカル。 笑いの中にシニカルなスパイスが散りばめられ、楽曲はどれも口ずさみたくなるようなメロディーの名曲揃いです。 演出・振付はクリス・ベイリー氏。 演出家・振付家として舞台・TV・映画など多方面でご活躍中ですが、ダンサーからキャリアをスタートされたという経歴が青山さんと重なります。 本作のブロードウェイ初演は1961年。 トニー賞7冠に輝きますが、その振付を担ったのが青山さんの敬愛するボブ・フォッシー。 フォッシーと言えばクールでセクシー、関節の使い方が独特なフォッシースタイルを思い浮かべますが、当時の彼は「コミカルにちょこまかと動き回る、作品のテイストに合わせた軽快なダンス(音楽評論家 中島薫氏の評論より抜粋)」を得意としていたそうで、こちらの振付も気になるところです。 また、日本初演は1964年に坂本九さんが主演を務められています。 九さんと言えば、青山さんの所属事務所の大先輩。 こんなところにもご縁を感じます。 そして、本作は2011年、ベイリー氏が振付助手を務められたダニエル・ラドクリフ主演版をベースとしているそうです。 主演フィンチはNEWSの増田貴久さん。 海外ミュージカル初出演とは思えない堂々としたパフォーマンスでした。 場面場面で見せる豊かな表情、中でも名案が閃いた時に見せるニカッとした笑顔にこちらの口元も緩みます。 ハードな振付も難なくこなし、伸びのある歌声、素直な歌唱が耳に心地よく響きました。 〈ローズマリー 笹本玲奈さん〉 歌にお芝居に抜群の安定感、恋に一途な女性をチャーミングに演じていらっしゃいます。 〈バド 松下優也さん〉 フィンチの出世を邪魔するライバル。 松下さんは初めて拝見しましたが、どこか憎めないお馬鹿なキャラに惹きつけられ、他の作品も観たくなりました。 〈人事部長ブラット 鈴木壮麻さん〉 『GOTTA STOP THAT MAN あいつを止めないと』で見せる絵に描いたようなダンディな姿は必見です。 〈ミス・ジョーンズ 春野寿美礼さん〉 その佇まいだけで有能な秘書であることが伝わってくるところは流石です。 〈ビグリー 今井清隆さん〉 言うまでもなくその美声は健在。 今回はなかなかハードなダンスにも挑んでおられます。 他にも郵便室長と会長の二役をこなすブラザートムさん、ミュージカル初挑戦の雛形あきこさん、ローズマリーの同僚秘書に林愛夏さんと多彩なキャスト陣が作品を彩ります。 本作はダンスナンバーが非常に多く、ダンス好きには堪らない作品です。 開演前に開いたパンフレットの振付アシスタントの欄に千田真司さんと吉元美里衣さんのお名前もあったので期待していましたが、オープニングナンバーを観るなり、その期待は確信に変わりました。 アンサンブルの皆さん全員、指の先から爪先まで神経が行き届き、動きが洗練されているのです。 これは踊れるメンバーが揃ってる!と嬉しくなりました。 特に気に入ったナンバーは『あいつを止めないと GOTTA STOP THAT MAN』。 ギャングのような雰囲気を醸し出す(大企業の社員なんですけれどね…)クールなダンスに心射抜かれます。 続く『君を信じてる I Believe I In You』ではフィンチが胸の内を歌い上げる中、アンサンブルの皆さんが洗面台を動かしながら、時に髭剃りの動作を交えたりするところも印象に残りました。 『我がオールドアイビー Grand Old Ivy』では、軽快なマーチのリズムに乗せ、シマリスのようにぴょんぴょん跳ねたり、すわ筋トレ大会!とばかりに連続バーピージャンプを始めたりと、消費カロリーかなりお高めなハードなダンスが楽しいです。 『Brotherhood Of Man 世界はひとつ』は身も心も踊り出すダンス満載の大ナンバー。 スーツ姿の男性が横一列に腕をクロスさせ「白鳥の湖」のように踊ったり、大勢でひと塊になってステップを揃えて横に移動する様もとってもユーモラス。 フィナーレに相応しい華やかなナンバーでした。 他にも『Coffee Break コーヒーブレイク』や『Pirate Dance 海賊ダンス』ではアクロバティックなペアダンスを存分に堪能できますが、男性陣のリードが非常に上手くスマートで、女性がより美しく踊れるようリードしているのが伝わってきました。 本作は新型コロナウィルス感染拡大の影響でクリス・ベイリー氏の来日が叶わないという非常事態に見舞われ、ともすれば公演そのものが危ぶまれる状況下、演出補の荻田浩一氏と共にニューヨークのベイリー氏と日本を結ぶ大役として白羽の矢が立ったのが青山さんでした。 青山さんがブログにも綴られていますが、リモートでの稽古・ミーティングを余儀なくされ、想像もつかないような日々があって漸く漕ぎ着けた開幕であったことを知りました。 初日終演後、荻田浩一氏が青山さんに仰った「このコロナ禍でこの作品が幕を開けた事は奇跡に近い事だ」という言葉に重みを感じます。 焦がれていた「あの場所」に戻って来ることができ、そこで観た作品が『ハウ・トゥー・サクシード』であったことをとても嬉しく思っています。 本作に係わられた全ての方々に心より感謝いたします。 素敵なひとときをありがとうございました。 来月には大阪公演が開幕します。 無事大千秋楽を迎えられますことを強く願っています。